民間立スクール 瀬戸ツクルスクール 一尾 茂疋さん
「公立の学校に通う子も、ここに来る子も、本質的なところは変わらない」。瀬戸ツクルスクールを率いる一尾茂疋さんは、そう穏やかに語ります。長く中学生を中心に教育の現場に立ってきた一尾さん。決められた時間に決められたことを決められた通りにやる――そんな枠の中で、子どもたちが少しずつ自信を失っていく姿を見つめてきた経験から、いまの学びの場をつくり始めました。これからの教育と、子どもが育つ場所について、じっくりとお話をうかがいました。
「自分で決める力」を、学びのスタートに
大人になって幸せに生きていくために、どんな力が必要か。一尾さんが真っ先に挙げるのは「自分で決める力」、つまり自己決定です。「そこがスタートじゃないかな」と話します。最近よく耳にする「助けてと言える力」やコミュニケーション力も大切だけれど、まずは自分で決めるところから始まる。自分で決めれば、ある程度は自分の権利や自由を主張できるようになる。そして必ずどこかで衝突も生まれるからこそ、粘り強さや、感情と付き合う力も少しずつ身についていく、と考えています。


けんかも、感情を学ぶ大切な時間
子どもたちはよくけんかをするといいます。けれど一尾さんは、口論くらいなら基本的にそのまま見守る。「どっちが悪い」を決めるのではなく、「次どうしようか」と問いかけ、解決へ目を向けていく。叩いたり傷つけたりはもちろん止めるけれど、生身のぶつかり合いから痛みや感情を学ぶ機会そのものを、大切にしているのです。
印象的なのは、感情を言葉にする練習です。「うわぁ」ではなく「ムカつく」「怒っている」と、まず気持ちに名前をつける。朝の集まりでは、楽しかったこと、嬉しかったこと、誰かにありがとうと思ったことを言葉にしてみる時間もあるそう。プラスの感情に目を向け、それを言葉にすることで、自分の感情を自覚できるようになっていく。「これが楽しいことなんだ」と教えすぎて洗脳にならないよう、最終的には子ども自身が決められるように、と気を配ります。
家庭とは違う「もうひとつの社会」として
家庭でも、学校でも、子どもは同じようにつまずく。けれど一尾さんは、家庭とは立場の違う「違う社会」がもうひとつあることに意味があると話します。家では起こりえないことが起こり、理不尽に思える出来事の中で、子どもは世界の広さを知っていく。だからこそ、親も一緒に学ぶ姿勢でいてほしい、と。相談の根っこにあるのは、しばしば「社会への信頼」の問題だと一尾さんは感じています。学校に行かなくても、社会にはいい人がたくさんいる――そう思えると、悩みが悩みでなくなることもあるのです。

瀬戸という地域から、子どもの未来へ
これからやってみたいことを尋ねると、一尾さんはまず足元の地域に目を向けます。自分が住む瀬戸という場所で、「面白かった」「何をやっても大丈夫だ」と思える原風景を子どもたちの中につくっていきたい。その積み重ねが、結果として地域を、そして社会を少し生きやすくしていくのではないか、と語ります。「こっちの予想を超えてほしい」。自分の想像の範囲に子どもを収めるのではなく、未来を生きる子どもたち自身が、その未来をつくっていく。そんな姿を見たいと、一尾さんは静かに、けれど確かな手応えを込めて話してくれました。





