美術館で作品を見るとき、「もう少し近くで見たい」と思う瞬間があります。
もちろん、展示室では作品に近づける距離に限りがあります。けれど、日本画の線や筆の重なり、紙面の細かな表情は、少し距離が変わるだけで見え方が変わる。千葉市美術館の特別展『文人として生きるー浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術』で実施された単眼鏡の無料レンタルは、その「あと少し近づきたい」を道具で助ける小さな仕掛けでした。

作品との距離を、少しだけ変える
発表資料によると、対象となる展覧会は千葉市美術館で開催された『文人として生きるー浦上玉堂と春琴・秋琴 父子の芸術』です。会期は2016年11月10日(木)から12月18日(日)まで。会期中には大幅な展示替え・頁替えがあると案内されています。作品名としては、浦上玉堂《山翁嘯咏図》(個人蔵)が記載されています。
この特別展の入場者を対象に、総合光学機器メーカーの株式会社ビクセンが協力する形で、単眼鏡の無料レンタルが行われました。貸し出し場所は入館受付。レンタル料は無料で、台数は先着10名分とされています。
先着10名分という小さな枠ですが、こういう道具があるだけで鑑賞の姿勢は少し変わります。全体を眺めるだけでなく、ひとつの線や余白に目を寄せる。鑑賞のスピードを落とすきっかけとして、単眼鏡はかなり静かな道具です。

20cm先に焦点を合わせられる単眼鏡
貸し出されたのは、ビクセンの単眼鏡「マルチモノキュラー4×12」です。倍率は4倍、口径は12mm。約20cmの近距離から焦点を合わせられる仕様で、レンズ全面には反射防止の多層膜コーティングが施されていると紹介されています。
双眼鏡ではなく単眼鏡というところも、美術館には合っています。片手で持ち、見たいところへそっと合わせる。遠くを見るための道具が、展示室では近くの細部を見直す道具になる。その使い道の反転が面白いです。
協力するビクセンは、1949年創業の光学機器メーカーです。天体望遠鏡、双眼鏡、顕微鏡、フィールドスコープ、ルーペなどの設計・製造を行う会社で、本社は埼玉県所沢市、代表取締役は新妻和重氏とされています。美術館の鑑賞に、光学機器メーカーの知見がそっと差し込まれている形です。
展示替えのある会期を、どう見るか
展覧会の会期について、発表資料では前期が11月10日(木)〜12月4日(日)、後期が12月6日(火)〜12月8日(日)と案内されています。ただし、全体会期は12月18日(日)までとされており、日付表記には確認が必要な部分があります。会期中に展示替え・頁替えがあるという点は、訪問前に展覧会ページで確認しておきたいところです。
会場は千葉市美術館。所在地は〒260-8733 千葉市中央区中央3-10-8、電話番号は043-221-2311です。開館時間は日〜木が10:00〜18:00、金・土が10:00〜20:00で、入場受付は閉館の30分前まで。休館日は11月21日(月)、11月28日(月)、12月5日(月)とされています。
観覧料は一般1,200円、前売り・団体・65歳以上は960円。大学生は700円、前売り・団体は560円。小・中学生、高校生は無料です。観覧料にはリピーター割引があるとも記載されています。
単眼鏡の無料レンタルは、作品そのものを変えるわけではありません。でも、見る人の距離を少し変える。絵の前で立ち止まり、細部に目を寄せる時間をつくる。美術館での体験を豊かにする仕掛けは、大きな設備だけではなく、こうした小さな道具からも始まるのだと思います。





