「ベスト5」から入れる“くりこし”——献立の迷子を止めてくれるレシピ本

平日の台所でしんどいのって、手間というより「今日、何にする?」の判断だったりする。料理研究家・上田淳子さんの新刊(NHK出版、3月18日刊行)は「くりこしおかず」という言葉で、その迷いを減らす道筋をつくっている。全77品をPart1〜Part5で収録。

冷蔵庫に保存容器がひとつあるだけで、帰宅後の呼吸がちょっと深くなる日がある。けれど、いわゆる「つくりおき」って、同じ味が続いて気持ちが折れやすいのも正直なところ。そんな“続かなさ”に、別の入り口を用意したのが「くりこしおかず」だ。

「つくりおきが苦手」と言い切るほどでもない。でも二日目、三日目に同じ器・同じ味が出てくると、飽きが先に立つ。忙しい日は時間より判断が重い——この感覚、心当たりありませんか。

上田淳子さんが提案する「くりこしおかず」は、時間を貯めるというより、“迷いの回数”を減らす発想に近い。いちど作ったおかずが、翌日は別の料理として立ち上がる。残りものの延長ではなく、最初から「変化」を前提にしているところが、気持ちを折れにくくしてくれる。

その中で、いちばん「これ、ちょっと好き」と思ったのは、入口の置き方だ。Part1が「まずはこれから! くりこしやすさベスト5」。ここがあるだけで、最初の一歩が軽くなる。レシピ本って、ページを開いた瞬間に情報量で迷子になりがちだけど、まず5つに絞って“道しるべ”を立ててくれる。こういうの、地味に助かる。

ベスト5の最初に置かれているのは「鶏ささ身と野菜の煮びたし」。これが翌日、「冷ややっこ具だくさんジュレがけ」になり、さらに「ささ身と野菜のさっぱりあえ麺」にもつながっていく。味変というより、料理のジャンルがすっと移動する感じ。煮びたしを“残す”のではなく、“次の皿に渡す”気分のよさがある。

本全体はPart1〜Part5構成で、Part2には「野菜1つでシンプルおかず」、Part3には「肉と野菜の満足おかず」、Part4は「常備菜としてもおいしい!」、Part5は「週末たっぷりつくりたい 肉おかず」。日々の体力に合わせて射程を変えられるように見える。

たとえばPart3の例だと、「鶏スペアリブとじゃがいものスープ煮」が、くりこしで「鶏スペアリブと長芋の柚子こしょう炒め」に展開し、さらに「じゃがいものポタージュ」へ。鍋の中身が分岐していく感覚があって、翌日の自分が助かるのに、同じものを食べ続けている気分になりにくい。

この本の話題は、デジタルマガジンでも記事が読めるそう。語られているのは、がんばる話というより、台所が続いていく現実の中で、判断の負荷を少しだけ下げるための工夫。結局、助かるのはここなんだと思う。

冷蔵庫に持ち越されるのは料理そのものだけじゃなくて、「明日の自分が迷わないための筋道」なのかもしれない。3月18日にNHK出版から出る上田淳子さんのこの新刊は、その筋道に「ベスト5」という分かりやすい入口をつけてくれた——そんな読み物として、台所の片隅に長く残りそうだ。

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