ひなまつりの日、オレンジの雪がこぼれた——ペンギンの「初節句」を見守る温度

和歌山・白浜町のアドベンチャーワールドで、2025年9月30日生まれのエンペラーペンギンの子どもを祝う時間があった。好きポイントはひとつ、性別発表に使われた「色つきの雪」。あの素材が、場の空気をやさしくしていた。

季節の行事って、ときどき「ちゃんとやらなきゃ」が先に立って、誰のための手間だったか見失いがちだ。3月3日のひなまつり、和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドでは、エンペラーペンギンの子どもの“初節句”を祝うセレモニーが開かれた。いちばん落ち着いていたのは、たぶん主役のほう。こういうの、地味に助かる——こちらの肩の力も、ふっと抜けるから。

開園後、海獣館2階に人が集まっていく。少しだけそわそわする空気の先にいるのは、2025年9月30日に誕生したエンペラーペンギンの子どもだ。まだ「この子」と呼ぶのがいちばん似合う。

生後5か月。綿羽が抜け落ちて、赤ちゃんから子ども(亜成鳥)へ——そんな節目にあたるという。成長って、カレンダーに合わせてきれいに区切れるわけじゃない。でも羽の質感が変わっていくのは、ちゃんと目で追える変化だ。暦だけじゃなく、体にも「節目」がある。その感じがいい。

そしてこの日は、性別も明かされた。外見では雌雄の判別ができないため、DNA鑑定で確かめたうえでの発表。演出は“ジェンダーリビール”風で、バケツの中に色つきの雪を忍ばせておき、オスならみどり、メスならオレンジが雪崩のようにこぼれる仕掛けだった。

私がいちばん好きだったのは、ここだ。風船でも紙吹雪でもなく、「雪」。ペンギンのいる場所に合っていて、派手さより手触りが先に立つ。わあっと盛り上げるというより、ふわっと場の温度がやわらぐ。見ている側も、声のボリュームを少し下げたくなる。

セレモニー前、子ども自身がバケツに興味を示していたという。人間が整えた段取りに、主役がきちんと乗ってくれるとは限らない。でも、そこがいい。大勢の視線とは関係なく、気になるものに近づいてみる。そのマイペースさだけが、進行表から自由だ。

10時15分、こぼれたのはオレンジ色。性別はメスだった。拍手が起きたとしても、当の本人はたぶん、目の前のことに忙しい。

園内で暮らすペンギンは約500羽。その中の1羽として、この子には個体識別用の翼帯がつけられ、正式番号はE044になった。かわいらしさが、ふっと「個体」に戻る瞬間がある。名前より先に番号が来る順番も、ここでは生活のリアルとしてすっと腑に落ちる。

初節句は、盛り上げるためというより、成長の途中に小さな印をつける時間だったのかもしれない。オレンジの雪がこぼれたこと。バケツを気にしていた視線。E044という記号。それぞれが、同じ一羽の「今日」を静かに残していた。こういう見守り方なら、行事も悪くない。

関連画像

出典